大丸屋騒動あれこれ
師匠五郎兵衛の川柳句集に「盛り塩が ひざをくずして夜がふける」の一句があります。大阪の今里新地で育った私はかろうじて「盛り塩がくずれる」のを見ています。私が子供の頃、お茶屋、見番の前には必ず盛り塩がありました。昔のお塩は精製せずニガリが入っていたので、空気中の水分を吸って次第にとけてゆくのです(今のお塩では、いつまでたってもとけません)。それで最初は尖っていた盛り塩の先が丸くなり、やがてどろっとくずれるのです。夕方に盛った塩が夜更けになるとくずれています。この形を「ひざをくずして」と表した師匠に感動します。芸者さんが、ひざをくずして横座りになっている姿が浮かびます。色街の夜更けのなまめかしさ、艶やかさが見事に出ています。師匠は大丸屋騒動にこの自作の句を使っています。主人公、宗三郎が祇園へ足を踏み入れる時の「はめもののきっかけ」です。本来なら「色街はいつに変わらぬ陽気なこと」でしょう。師匠はこの句を口にすると、実に粹に扇子を開きました。その時の表情は祇園で遊んだ時の楽しさ、喜びにあふれていて、まさに宗三郎になるのです。「かにかくに 祇園はこひし 寝る時も 枕のしたを水のながるる」吉井勇の一首です。これを下敷きにした師匠の一句「かにかくに祇園はこひし 金は無し」。ほんまに祇園、お茶屋遊びが好きだったのです。だからこそ、色街の華やかさ、宗三郎の浮き立つような気分が、聞く側に伝わってきました。そんな「気分」が少しでも再現できればと思います。
【2013.4.8 新治】
三田落語会と浜松町かもめ亭
私にとって、大きな山をなんとか越えたという思いです。三田落語会は、さん喬師匠や小澤御席亭の配慮でトリを取らせて戴きました。去年の鈴本演芸場六月中席以来の「大抜擢」です。会場入りして、すぐに、半輔さん、さん坊さん、三味線のおその師匠とハメモノの打ち合わせ。段取りを説明するだけでなく、かなりの部分を本息で語りました。結果的には、これがかっこうのリハになり、本番は落ちついて勤めることができました。
一席目の「狼講釈」で、俵星玄蕃の「先生! おお!、蕎麦屋か」と言うところを、「おお、柳亭市馬か!」と、やってみました。ズット考えていたわけではなく、面白いかなと思っていたのを、ノリでやってしまいました。まさかあんなに受けるとは! それだけ市馬さんの歌は有名なのですね。ドッと来たのにびっくりして、そのあと「本当にしどろもどろ」になってしまいました。なんとか一席終えたところで、もうへたへた、さん喬師匠の「包丁」を聞く余裕も無し。楽屋でひたすら体を冷やしていました。
さん喬師匠の中入りを挟んでの二席目、なんと「ちりとてちん」。「お酒を飲んで、豆腐を食べる」やないですか! 大丸屋も「お酒を飲んで、豆腐を食べる」のです。豆腐を糠漬けに変えようと思いましたが、逆に使おうと思い、番頭が宗三郎に豆腐を勧めるとき「カビは生えてまへんで」と遊んでみました。お笑い戴きましたが、果たしてお客様はどうでしたか。ただ、糠漬けにしてたら、「包丁」で糠漬けを食べる場面があり、重なるところでした。寄席は「なまもの」です。気をつけねば。
「大丸屋騒動」は、今回祇園の芸妓、舞妓の踊りの輪に、宗三郎が血刀下げて、乱入してゆくところに、力を入れました。歌舞伎伊勢音頭を意識してやってみましたが、やはり力が入ってしまいます。刀の振り方は、豊来家玉之助さんに教えてもらいました。剣道は撃つのが主で、切る形を主とする殺陣とは違います。玉之助さんは、刀の重みにひきずられるように切る形を考えてくれました。旭川で仕事をした時、わざわざ重い木刀を持ってきてくれ、ホテルの前で稽古しました。男二人が、木刀を振り回していたので、ホテルのボーイさんが驚いて走ってきたりしました。なまなかうまくできませんが、29日のトリイホールまでの宿題です。
終わっての拍手がすごかったので、手ごたえを感じました。ツイッターやブログで、思いのほか好評で、「好意的な意見を真に受ける私は」舞い上がっています。この嬉しさを次につなげたいと願っています。
間の日曜日は、国立にいる娘や孫と、昭和記念公園に行きました。のんびりするはずでしたが、喜多八師匠との「かもめ亭」のことで余裕が無く、水遊びをする孫を眺めながら、ネタに迷っていました。そして「紙入れ」、「七段目」、「鹿政談」と思い、会場入り。そこで、上方らしく「見台を使ったら」と提案され、七段目はやりにくいので「紙入れ」と思っていたら、「2月にでているので、ちょっと?」となりました。
私は、2月に出ていてもかまわないと思っていましたし、旬の「矢口真里」を入れたくて、したかったのですが、諦めました。それで急遽「兵庫舟」に変更。笑助さん、なな子さん、三味線のゆうこ師匠とハメモノの打ち合わせをして、臨みました。喜多八師匠は余裕の高座。私は、冷房が効きすぎと不評の中、一人鹿政談で汗だく。それでも、あたたかいお客様で、終わってすばらしい拍手を戴きました。私にとっての大舞台、二箇所はかなりいい形で乗り切れたと思います。
今週のトリイホールでのテント師匠との二人会、そして7月の繁昌亭昼席、更には次の正念場、鈴本演芸場、そして9月9日の第二回東京独演会、さらには10月12日(土)繁昌亭夜席での、第四回露の新治寄席。この年で挑戦できる幸せ(体の健康の含めて)を感じています。願生ります。【2013/6/26 新治】
大丸屋騒動散歩ツァー
大丸屋騒動の舞台をぐるっと散歩する。今日からはじまる祇園祭も散歩するにはちょうどよかった! 二軒茶屋あたりで豪雨にあたるも石畳の風景として溶け込んでいた。また聴きたい。露の新治「大丸屋騒動」。
宗三郎が小体な家を見つけてもらった木屋町三条上がる。早朝は夜の喧騒がうっすらと。(7:45)
三条大橋から木屋町の川床風景。ここで喜助と会話。(7:50)
喜助との会話ででてきただん玉の法林寺。(8:10)
おときの住む祇園富永町。(8:30)
八坂神社南門、二軒茶屋付近。ここから宗三郎が斬って斬って斬りまくる。(9:30)
二軒茶屋、下河原町、土砂降りの石畳。(9:40)
大丸屋騒動散歩よかったですよー! 三条から四条にかけてドキドキしっぱなしでした!「大丸屋騒動散歩ツアーいいですよ」と宿の若亭主にお伝えしたくらいです。
【2013.7.14 tremooors様】(ご本人の了解を得て、Twitterから転載させていただきました。MORI)
今月始めに 私も京都へ出かけておりました。昔から言う 盛り塩は 多分 こんな塩の盛り方ではなかったと思いますが、私も祗園で写真を撮っていますので、少し送ります。
【2013.7.16 三重県伊勢市 伊勢の追っかけマネージャ様】
ほめ過ぎやけど、励みになります。
東京公演、三田落語会、かもめ亭大成功です! ツイッター、ブログでほめて戴いてます。私は耳に心地よい言葉だけ真に受けるといういい性格なので、誠に嬉しいかぎりです。願生ります!
「三田落語会「さん喬・新治」」 HOME★9(ほめ・く)
「男の弱さに妖刀がつけこむ 新治&さん喬 三田落語会」梟通信〜ホンの戯言
「第26回 三田落語会 夜席」 噺の話
「新治は、関西の人に聞いたら、若い時は男前で、口さばきのうまい人。露の一門を背負っていく人だそうです。」
「新治の2席を聴くと、あれに対抗しうる東京の噺家が果たしているかなと、そう思ってしまいました。良い刺激にな ればいいんですが。」
「たしかに、新治に匹敵する噺家は、なかなかいそうにないですね。味わいは随分違いますが、今のっている、ということでは雲助かと思います。内幸町にも何とか行きたいのですが、チケットが取れるかどうか・・・・・・。」
ほんまに私のことかと思います。見事にはまりました。願生ります!【2013/6/26 新治】
|
みなさんからのお便り
昨晩の三田落語会は、「マッテマシタ!」の私の掛け声と共に新治師匠が颯爽と登場されました。嬉しかったです。それというのも新治師匠の噺を伺うのは実に半年ぶりのこと。まさにマッテ、マッテ、マッテいたのでした。期待にたがわず新治師匠とさん喬師匠のこの二人会は、本当に素晴らしかったの一言! 噺を聴き終えたあとのこの充実感は一体何なのだろうと考えました。それは一つは新治師匠がかけた「狼講釈」「大丸屋騒動」と、さん喬師匠の「包丁」「ちりとてちん」の噺が、絶妙に絡み合い相乗効果をもたらした結果、さらに噺に磨きがかけられたからでしょう。取り上げた噺が会場の空間にコラボレーションされる為には、高座での両師匠の互いの連携や協調性があって初めて創り出すことが可能だと思います。ここに両師匠が互いの存在を認め合う強い絆を感じます。友情にも似た気持ちを併せ持った、素晴らしい噺家という同志ですね。これからも両師匠の日頃のたゆまざる精進をお祈りし、私達によりよい噺を聴かせていただければとお願いするばかりです。新治師匠には明晩の喜多八師匠との二人会を期待しています。【2013.6.23 東京都渋谷区 ON様】
いつも顔付けがよく、江戸の落語ファンの間では大変人気のある三田落語会に上方から初の噺家として新治師匠が出演されました。この会には、お席亭の落語愛とこだわりをとても強く感じます。見に来るお客様ももちろん落語が大好きな方々。さん喬師匠はこの会の常連です。そんなさん喬師匠と昨年の鈴本での好演が評判の新治師匠の二人会。チケットはあっという間に完売でした! 人気の会なのでチケット入手も大変。この日も、朝の8時から(!)次回のチケットを買うための整理券をもらう列が出来ていたとか・・・。私ももちろん、三田落語会は好きでたまに寄せていただいてましたが、まさかそこに新治師匠が出演される日が来ようとは、夢にも思っていませんでした。本当に嬉しいです。お席亭が、鈴本に出演された新治師匠の高座を見て出演を依頼されたとか。さすがの審美眼! 新治→さん喬→さん喬→新治と、新治師匠に始まり、新治師匠で終わる、なんともすごい番組で、プログラムを見てテンションがさらに上がりました。プログラムには「ゼロからわかる落語」にて新治師匠を取り上げてくださった石井徹也氏による新治師匠の紹介文がみっちりと。本当によく調べられていて、きっと「落語家・露の新治」を紹介した文章の中では、もっとも詳細に書かれているものではないでしょうか。さん喬師匠はまくらで何度も「皆さん今日は大丸屋目当てで来たんでしょ?私のときは休んでていいですよ」とすねた感じで言ったり、狼講釈を褒めちぎってくれたり、新治師匠を盛り立ててくれました。ネタ出ししていた「大丸屋騒動」はトリでたっぷり。私は去年のらくだ亭で聴いて以来。同じ6月だったので約1年ぶりです。台風が東京を避けてくれて、久しぶりの晴れ間。蒸し暑いお天気。夏の京都を舞台にした大丸屋を聴くにはピッタリ、お膳立てが整いました。一席目で登場した時の拍手の暖かいこと。「待ってました!」のかけ声。「狼講釈」を聴いてさらに期待は高まります。トリで登場した時の拍手もまたすごかった。
東京の噺家はまずやらないネタです。今回もこの噺を初めて聴く方がほとんどでしょう。「盛り塩が ひざをくずして 夜が更ける」五郎兵衛師匠の川柳の解説をまくらに噺に入ります。私は、黒門亭、らくだ亭に続き、この噺を聴くのは3度目ですが、さらに磨きがかかってますね!! 会場は静まり返り、お客は固唾をのんでことの顛末を見守ります。妖刀村正を振り回す姿はまさに刀に操られたよう。ドンドンドン…と響く太鼓の音と心臓の音が重なりいよいよクライマックス!! しょーもない落ち(!?)に張りつめていた空気が一気に解けます。万雷の拍手。
お辞儀をする新治師匠が追い出し太鼓を制し、ご挨拶を。五郎兵衛師匠のお話かな?と思ったら「このネタは下座(三味線、太鼓、ツケ、銅鑼)が大変なんです。それをたった一回の打ち合わせでここまで見事にやってくれました。下座の皆さんに感謝します」と、フル稼働で熱演を盛り上げた下座への賛辞。いかにも新治師匠らしい幕切れとなりました。周りのお客がくちぐちに「凄かった…!」「いやー、凄かったね」と言っていました。東京の落語ファンをも魅了し、三田落語会の初高座は見事大成功となりました!!終演後の高座。セミナールームに広くて立派な高座を設営。下座スペースもあります。
【2013.6.23 東京都 SK様】
わくわくして行きました、昨日の三田会。前座の「子ほめ」のセリフをやさしく引き継いでいつものマクラが何べん聴いても面白くて会場はいっぺんに掴まれてしまいました。奇をてらわないギャグ、面白いことを普通に面白がる楽しさ! 「狼講釈」、爆笑してるこっちはいいけどやってる方はワライゴトヤオマヘンですね。大阪弁の「鉄砲」「ちりむすんだような」の丁寧なマクラが見事に生きました。「大丸屋騒動」、私は二度目ですが、前は何を聴いていたのかと思うほど、新たな感動。若旦那が喜助の目を盗んで祇園に出るところあたりから村正が人格を持ってくるような感じがしました。さん喬さんはこのところ私には重たくてちょっと、、でしたが、昨日はいい塩梅に力が抜けて、私の好きな”笑わせる”さん喬になってくれました。新治初体験の落語仲間も一緒だったのですが、口々に「すごかった、はまった」、誘った私までがちょっと鼻が高かったです。切符がますます取れにくくなるのがちょっと困るけど^^。明日は喜多八さんとの共演、今からわくわくです。【2013.6.24 東京都世田谷区 佐平次様】
行ってきました。トリイホール「新治寄席」満員御礼。雅さんが新治師お得意の「狼講釈」でたらめ講釈があまり脱線しないところが優等生←多分、の雅さんらしかったです。テント師は落語と漫談。落語の時は「天幕」ですって。創作落語が良かったです。新治師は2席。「紙入れ」はほんまに色っぽくて素敵です。奥さんが美人に思えてくるところが絶品。失礼ながらお顔が「お茶目な山中教授」なのに全盛期の池波志乃か…あれ誰でしたっけ?色っぽくて危うい感じの、あ、大地喜和子や。に見えてくるのは仕草の妙かしら? 「大丸屋騒動」は露の五郎兵衛追善落語会いらい足かけ四年ぶり。たっぷり45分。 伏見の兄が「三月は長いぞ」というて聞かせるところが他のCDにはないように思います。「あとひと月待てんかったんかい」と思いますが、おときや番頭のやりとりが丁寧に作り上げられていて「みんなが甘やかすからや」と納得。羽織りの演出も凄惨な場面が目に見えるみたいでした。お着物はあれが惣三郎の着ていた「白薩摩」ですか?夏の噺ですね。最後のオチの落差も本当に気持ちよかったです。お囃子さん紹介も映画のエンドロールみたいでしたよ。
【2013.6.29 大阪市住吉区 KS様】
第3回露の新治寄席 「テント・新治二人会」(2013.6.29 トリイホール)
「大丸屋騒動」は、師匠・五郎兵衛の川柳「盛り塩がひざを崩して夜が更ける」という粋な一句も紹介し、邪剣とも言われた妖刀・村正のことを語り、やや長めのまくら。本編は京都伏見の大丸屋のことを語り、縁あってここにあった村正に惚れ込んだ次男の惣三郎が、祇園の芸妓おときと相思相愛になったが、親戚の目もあり身請けして一緒になるために、その間一切会わぬことを約束に三ヶ月、木屋町で出養生を‥という、そんないきさつを丁寧に運んで「京の四季」の三味線と唄に京都の風景をしみじみと眺め描写するくだりが、とても印象的。で、惣三郎は喜助の言葉でおときのことを思い出して会いたくなり、顔を見るだけならと村正を携え、まんまと抜け出しておときの元へ。そこから、噺はあらぬ方向に行き、おときにすげなくされてカッとなり村正をさやごと振ると、さやが割れて斬られたおとき。妖刀に取り憑かれた惣三郎、下女も斬ってしまい、追ってきた喜助も斬り殺してしまう。新治は芝居がかった狂気の演技で見せ、ぎらつく目など誇張気味にして役者さんのよう。京の四条通をふらふらと血刀を持って総踊りの輪の中に、という恐ろしい場面もかけつけた兄が取り押さえ、伏見(不死身)の兄でございます、というサゲへと運んで、お客さんは後半の熱演に一つの芝居を見た印象だったかもしれません。
【2013.7.12 やまだりよこ様】(ご本人の了解を得て「週刊 落maga」から転載させていただきました。MORI】